P 2014年10月01日
学生時代には渋谷や新宿でナンパを繰り返し、現在は地元である長野県で市職員を勤めながら、地域活性化に尽力している山田祟氏。そんな同氏が、「ナンパ」と「地域活性化 」の知られざる共通点を指摘し、人を巻き込みながら挑戦するさまざまな施策について紹介しました。(この動画は2014年5月に公開されたものです)
【スピーカー】 長野県塩尻市職員/空き家から始まる商店街の賑わい創出プロジェクトnanoda 代表 山田崇 氏
【動画もぜひご覧ください!】ひとりじゃ円陣組めない: Takashi Yamada at TEDxSaku
「ナンパ」が、偶然の人間関係を引き寄せる
山田崇氏:「ひとりじゃ円陣組めない」。20年前、19歳の頃ですかね。4年間ずっとこういうことしてたんですよね。「このくらいの白いペンギン、探してるんです」「このくらいの白いペンギン、探してるんです」。これをずっとやってました。辞書でこう書かれてました。
(会場笑)
いやぁ~、やってましたね(笑)。今日ここでこんな話ができるなんて最高ですね。「ナンパ」の話をします。
さあ、これはどこでしょう? 東京のある都市です。そうです、渋谷のセンター街まで行ってナンパしてました。楽しかったなぁ……。私は千葉の大学に行ってましたので、千葉の駅から1時間15分、毎週末、渋谷に行ってました。
そこで「このくらいの小さなペンギンを探してるんです」、そういった言葉で女の子に声をかけていました。新宿でもやりましたね。楽しかったなぁ~(笑)。
仲間と一緒にだいたい2人か3人でやってたんですよね。渋谷でナンパした3か月後に、また同じ子をナンパしたっていうケースもありました。向こうから「あ、神じゃん!」と言われて。「神」とは私の友達なんですけど。
社会人になって長野県に帰ってきてからもナンパをしてたんですよね。塩尻市に住んでるんですが、松本駅の前に行ってナンパしてました。実は、東京で2組、松本で1組、友人がナンパがきっかけで結婚したんですよ。いやぁ、びっくりです。今は子どもにも産まれています。
声をかけた時は、まさかそうなるなんて思ってもなかったんですよね。だけどそれがなんだか今、すごく快感になっています。
私が声をかけないと、私の友人が声をかけないと、絶対に出会わない人たちでした。しかもですね、大勢に声をかけるわけではなくて、ひとりひとり、丁寧に、丁寧に、丁寧に……(笑)。丁寧に声をかけていきます。偶然の人間関係の連続というものがすごく快感だなぁと思ってきました。
偶然の連続が、個人の8割のキャリアを形成する
スタンフォード大学のグランボルツ教授の理論です。「個人の8割のキャリアは、予想していない偶然の連続によって形成される」という、「計画的偶発性理論」を提案しました。実はこのグランボルツ教授は、この5つの行動特性を持っている人が、そういったキャリアになりやすいよ、と言っています。
ナンパをこれに合わせてみたら、なんかしっくりきたんですよね。「好奇心」「持続性」「柔軟性」「楽観性」「冒険心」。ちょっと説明してみましょうね。
まず「好奇心」。偶然の出会いです。渋谷に行く電車に乗っている時、「今日誰と会うんだろう?」って。家を出たときなんて誰に会うかもわかってないんですよ。私はね、女の子にモテたい、当時。いや、今もそうかもしれない。「今日は誰と会うのかな?」という好奇心、これがありました。毎週通うぐらいの好奇心がありましたね。
次は「持続性」。たまにかわいくない子もいるんですよ(笑)。私たちの場合、結構リピーターになってくれる方が多くて、その後合コンにつながっていくんです。そこから結婚をしていくまでになったりするんですが。「いや、この子はちょっとかわいくないかもしれないけど、この子が次に連れてくる友達はかわいいかもしれない」。この持続性があって、根気強く毎週できました。
次は「柔軟性」ですね。出会った瞬間から話を始めなくてはいけません。しかも立ち止まってもらって、その後飲みに行って、あわよくば……っていうところまで、柔軟に対応していかなければいけない。この柔軟性はあったなぁと思いますね。
渋谷とか新宿の女の子って、ナンパされ慣れてるんですよね。「ねぇねぇ、ちょっと飲み行かない?」、これ、ダメです。ですので「このぐらいの小さいペンギン探してるんです」って言うと、「えっ、何?」と……。
(会場笑)
「ちょっと飲み行こうよ」っていうのと差別化できたんですよね。
あと「楽観性」ですね。断られるんですよ、結構冷たく。無視されたり。凹むんですよ。何回も何回も失敗します。私、最初に「ひとりじゃ円陣組めない」って言ったんですけど、仲間と必ず円陣を組んでから声をかけに行きました。「大丈夫だ、一生会わない、一生会わない、一生会わない」。
断られても、ひどいこと言われても、あの子とは一生会わないと。もうひとつ意味があります。私たちが声をかけなければ、一生会えないかもしれない。これがすごく勇気になりましたね。
そして「冒険心」。まずはやってみよう、勇気を出してやってみようということで4年間……、いや、長野に帰ってきて社会人になってからもやってましたね。
ユニークな商店街復興策
さて、私のプロフィールですが、現在39歳になって、新宿歌舞伎町から長野県塩尻市大門栄町へ、渋谷のセンター街から大門商店街へフィールドを移して活動しています。ちょっとそのお話をしましょうかね。これが本題かな?
これは野田キリコさんがデザインしてくれたんですよ。嬉しいなぁ……。「nanoda」という、空き店舗を借りた拠点の活動の話をしていきます。渋谷からずーっと特急あずさに2時間半乗って、市役所に就職して、39歳山田崇、今ここで、大門商店街のある1軒の空き家を借りて活動しています。
全国どこにある商店街も一緒ですが、大門商店街は約130ある店舗のうち23.1%、約30件が空き店舗となっています。私が小学生だった頃はもっと賑やかでしたね。そこで私たち市の職員は、勉強会を通じて商店街の振興を考えよう、となりました。
だけど「待てよ」と。自分たちは公務員。商売したことがないし、実際住んだことのないのに、商店街の現状の課題がわかるのか? こんなところで議論してもダメだ、まず1件借りてみよう。ということで、活動をスタートしました。これがその空き家ですね。
右側の2階建て、もう築50年~60年ですか。これが私達が借りている空き店舗「nanoda」ですね。4年間空き店舗になっていました。左側が大家さんのご自宅ですね。シャッターが閉まっているところ。鈴木ショウジさん、現在83歳。奥様とお2人で住んでいます。息子さんと娘さんがいるんですが、2人ともご結婚や仕事の関係で愛知県に行っていました。
まずはここを1件借りてみよう、それで可能な限り住んで、滞在してみよう。そこで大門商店街は今、何に困っているのかなというのを知るという活動を始めました。2012年4月15日からスタートして、今は3年目です。
全国誌にも取り上げられた朝食イベントとは?
これは私たちのコアメンバーと、よく遊びに来てくれている人たちです。これは全国雑誌の『TURNS』で取り上げられた時の写真ですね。すごく素敵な写真です。
最初私たちは、出勤前に平日の朝7時から8時まで、とりあえずシャッターを開けてみることにしました。これを2か月3か月続けることによって町に変化があるのか、それをインスタレーションと呼ぼう、特に何も考えずに、まずは借りてみてそこにいよう、ということになりました。
今は3年目になって、いろんな活動をしています。ただ朝にシャッターを開けているだけじゃなくて、朝ごはんを一緒に食べればどうかということで、「朝食なのだ」。nanodaというのは拠点の名前でもあり、そこで行われるイベントの名前にもなっています。
この時は行列ができたんです。朝7時ですよ? カツサンドを100個、朝7時から販売しました。商店街には普段朝食を出している店なんて1件もありません。カツサンドを出しているお店もありません。精肉店とパン屋さんのコラボレーションで作っていただきました。これは嬉しかったですねぇ。
食べ歩きイベント「ぐるぐるカレーなのだ」
「ぐるぐるカレーなのだ」。商店街にあるカレー屋さんは1件だけなんですよ。でも、普段カレーなんか出してないお店にも無理やり「カレー作りましょうよ」って言って、食べ歩きイベントをしました。左から、喫茶店、惣菜屋、フレンチシェフ、1件だけカレー屋さん、それとイタリアンですね。
カレー食べ歩きの何が良いかというと、2つあります。1つは、カレーって結構2~3杯食べれちゃうんですよね。コンプリート、完食した人もいます、親子でですね。ちょっと小さめのカレーで300円~500円で作ってくださいということでやりました。
2つめの良いことは、残ってもロスにならないんですよね。次の日に出したり、お店の人たちが家族で食べたりできます。こういった形でカレーをテーマに商店街を回遊していただく企画をやりました。楽しかったなあ。250食、1日で完売です。
超ローカルFM局も開設
100mしか届かない「FM放送局なのだ」。商店街の空き店舗で、100mしか届かないFM放送局をやってます。これの何が良いか。ラジオを持ってこないと聞こえないんですよね。そうすると事前に人が集まってきます(笑)。
それともう1つ、「何やってるの?」って来た人に、「ちょっと話そうよ、ラジオやってるから」「いい、いい。恥ずかしいよ」「大丈夫。誰も聞いてないから……」。
(会場笑)
そうやって話をしていただくんですよ。最初のゲストは大家さんの鈴木ショウジさんでした。「商店街、昔はどうだったんですか?」「どうして閉めちゃったんですか?」「今後どういう商店街になってほしいですか?」というのを、話してもらうきっかけにしています。
19歳の頃の私は、目の前の女子大生に夢中でした。今は、隣の空き家のおじいちゃんに夢中ですね(笑)。
「nanoda」と「ナンパ」はよく似ている
グランボルツ教授の理論を思い出すと、なんかこれ(この活動)ナンパと似てるなってちょっと思ったんですよね。「好奇心」から「冒険心」、なんか全て当てはまりそうだなと。
「好奇心」、つながりですね。私が空き家nanodaを借りなければ出会わなかった人たちがたくさんいます。また私たちの空き家の活動を見に来て、お互い同士がつながるというつながりも生まれてきています。
「持続性」、私は鈴木ショウジさんを看取るまでやると宣言しています。まちづくりや商店街振興は、私は10年ぐらいやらないとわからないんじゃないかと思ってます。良かったのか悪かったのかもわからないと思います。「このくらいやらないとダメだな」と周りに言いふらしています。今もそうですけど(笑)。
「柔軟性」、nanodaには建物の属性は設けていません。イベントスペース、会議室、そういうのはありません。なにかやりたい人がいて「いいじゃん、それやってみようよ」となった時に、「トークなのだ」「カフェなのだ」「ワインなのだ」そういった形で柔軟に何でもやってもいいスペースにしています。
「楽観性」、これは仕事じゃないんですよ。自分たちでお金を出して、自分たちの時間の中で仕事以外の時間を作ってやってるんですよ。これの何が良いか? 上司がいないんです(笑)。
(会場笑)
それと長く続けられますね。誰にも頼まれてないですけど、やっています。まずやってみる。目的は特になかったです。まず1件借りてみようという「冒険心」からやっています。2件目が、昨年の6月にオープンした「atelierなのだ」。それと、ちょうど先週ものづくりの拠点にしたいということで、もう1件あけて住んでくれた人がいます。嬉しいですね。
行政は「地域」という言葉で、焦点をボヤかす
やってみなきゃわからないことだらけですね。借りてみてわかったことがたくさんあります。3年前に借りた当初は、こうなるとは思ったなかったです。ここでこんなふうに発表することも想像もしていなかったです。私は市の職員なんですが、嫌いな言葉があって。これ、いつも言っています。「市民」「住民」「人々」。
今日のテーマにもありますが「地域」。行政の職員は、そうやってひとりをボヤかします。ひとりを見ません。「地域」が困ってるんだ、「人々」が困っているんだ、そうやってボヤかす。
私はひとりに向き合うこと、今回ですと、4年間空き家を抱えて困ってた鈴木ショウジさんひとりを何とか助けてあげる、それができないと私は多くは救えないと思っています。行政の職員として、ひとりを救う経験を仕組み化するのが行政だと思っています。
(19歳の)当時、いずみちゃんを追っかけてました。今は、鈴木ショウジさんひとりと向き合っています。みなさん、私は最初こうなるとは思ってなかったんですよ。気軽に、真剣に、目の前のひとりと関わってみる。今日のテーマ「Power of community」、地域に力を、とあるんですが、私はまず、みなさんが目の前にいる人と気軽に真剣に関わりあうことから地域の元気が生まれるんじゃないかなと思っています。
これは雑誌『TURNS』の表紙を撮影したあとの集合写真ですね。メディアに出れなかった方たちも一緒に入ってます。すっごい好きな写真です。私が空き家を借りなければ絶対に会えなかった人たちと、こんなにいい笑顔で写真を撮れた。そして今も一緒に活動してます。すごく嬉しいです。
ひとりじゃ円陣組めない
この写真を撮ったのは3週間前なんですよね。右側が私です。真ん中が当時東京でナンパしていた仲間。左は松本に帰ってきてナンパしていた仲間。この3人で会いました。「あの頃、何をやってたんだっけ? そうだ、『このぐらいの白いペンギン探してます』やったな~!」。
もう1回松本でやってみました。3週間前に。私、39歳。もう当時の仲間2人は結婚して、子どももいます。「実はTEDxでこういう話をするんだ」と言って。そしたらですね、ものの5分でナンパ成功しちゃってますね。この時は「5分だけ5分だけ、5分だけ飲もうよ」っていう手を使いました。「スイーツ美味しいところあるから、5分だけ」って。タイマーを出して5分測って飲み始めたりして。ナンパしたあとに記念撮影しました。
(会場笑)
右側にうっすら5分のタイマー出てますよね。「全部の注文来てからだよ」って言って5分測って、「延長、延長! ちょっとおもしろいよね」って盛り上がって。実はこの後、2次会に行きました。いやぁ~、楽しかったですね。その時会うとも思ってない人たちと2次会に行って、「今度打ち上げやろうぜ!」っていう話になっています。何の打ち上げだ?
(会場笑)
このTEDxが終わったら、これを見て打ち上げしようと思います。みなさん、できます。39歳、できますよ、私。みなさんも気軽に声かけてみましょうよ。
ただ、私、ひとりじゃナンパやったことないです。恥ずかしい、大変だよ、って。空き家のnanodaもそうです。最初私がやってみようと言って、2人め、3人めのコアメンバーができて、今は多くの方が関わってやっています。誰かと一緒にやったほうがいいなぁと思います。
塩尻で困ってることは、他の似たような地域でも困ってると思います。なので、地域を超えても一緒にやろうということでやっています。塩尻でできるんだから、みんなの地域でもできるよと。
私、今日ここにいるなんて想像もしなかったです。だけど偶然の連続の出会いによる仲間と、今ここに来ているなぁ。そう思っています。ひとりじゃ円陣組めません。「一生会わない、一生会わない」ってひとりで言ってたらかっこ悪いですよ、気持ち悪いよね(笑)。
Nanpaなのだ。最後です。みなさん、映像を見てる人たちも、これを聞いて何かやってみようと思った人。ひとりではできないけど、なんか俺、好奇心あるんだ、冒険してみたいなという人は、ぜひ私をナンパしてください。
(会場笑)
一緒にやりましょう。失敗したら一緒に謝ります。山田でした。ありがとうございます。